為末大(元プロ陸上選手) × 川邊健太郎(ヤフー副社長)対談 ITによる「エンパワーメント」で、社会的課題をみんなで解決

為末大と川邊健太郎の写真

「エンパワーメント」(※)――。聞き慣れない言葉かもしれないが、人間の潜在能力を引き出すことで、個人や集団の自立を促し、平等・公正な社会を実現するという意味だ。人口減少や高齢化など社会的課題が山積みの日本で、ヤフーというIT(情報技術)企業がどこまで課題の解決に貢献できるのか。元プロ陸上選手で、障がい者スポーツにも力を入れる為末大さんと、ヤフー株式会社副社長の川邊健太郎に語ってもらった。

聞き手=森 摂(オルタナ編集長)  撮影=山田 英博

(※)エンパワーメント:社会、組織の構成員ひとりひとりが、発展や改革に必要な力をつける (エンパワーメント) という意味の言葉。 1980年代における女性の権利獲得運動のなかで使われるようになった言葉であるが、現在は対象が拡大しつつある。
出典:コトバンク

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――ヤフーは企業理念として、「課題解決エンジン」を掲げています。ヤフーはインターネットの力を生かして、どのように社会的課題を解決していきたいとお考えでしょうか。

川邊:人は日々、いろいろな意思決定をしながら、未来に向かって生きています。そこには、大小さまざまな課題がある。当社は、人間が生活するうえで抱える課題を、インターネット上で解決できるようにしていくためのツールを提供する会社だと思っています。

例えば、「ヤフオク!」では不要になったものを捨てることが減り、多くのユーザーがリユースを楽しんでいます。「Yahoo!知恵袋」でも多くの人が知識やノウハウを共有し、個人の困り事を瞬時に解決しています。

もともと、コンピューターやインターネットは軍事用として国家権力のためにつくられたものでした。それが時をへて、パーソナルコンピューターが生まれ、個人に力を与えるツールになったのです。

当社も、ITの力で個人を「エンパワー」していくこと(エンパワーメント)が重要だと考えています。為末さんが取り組んでいるように、障がい者支援にITの力を生かすことも考えています。

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ITの力で社会変革を促す

為末:まだインターネットがないと成立しないスポーツはありません。

例えば、ITとスポーツの融合として「超人スポーツ」があります。これは、ITをはじめ、ロボットや映像などの先端技術の力で、人間の身体能力を超えた力を発揮する新しいスポーツの構想です。

パラリンピックでは、義手や義足に動力を入れることは禁止されていますが、超人スポーツでは、身体機能を強化する装置を身に付け、健常者も障がい者も同じようにスポーツを楽しむことを目指しています。

例えば、歩行に関するビッグデータを解析し、障がい者の潜在能力を十二分に引き出す義足を開発できれば、マイナスをゼロにするだけでなく、プラスにさえ転換できます。

川邊:テクノロジーは、障がい者の不自由さや差別をなくすにとどまらず、大スターへと変貌させる可能性も秘めています。空を飛ぶことも、決して絵空事ではありません。

――「超人スポーツ」とは、面白い発想ですね。ITを生かして、個人や組織、そして社会全体をエンパワーし、日本が世界に抜きんでた存在になれば素晴らしい。

為末:日本は、人口減少や高齢化といった課題先進国ですから、こうした課題を解決するイノベーションがITの力によって生まれやすいともいえます。

川邊:インターネットが社会的課題を解決していき、日々の暮らしにますますITが浸透していくと、情報発信が一極集中型ではなく、各地から発信し合う地方分権型の社会になっていくでしょう。

為末:インターネットの性質的に中央集権的にはなり得ないですからね。そうなってくると、これまでの国のあり方さえ変わっていきそうですね。

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コミュニティーの能力を引き出す

――個人だけでなく、地域社会(コミュニティー)についても、その潜在能力を引き出し、力を最大化していくことが大切です。コミュニティーのエンパワーメントについては、どうお考えでしょうか。

川邊:今後、日本は高齢化によって社会負担の金額が増えて、高税率になる可能性が高いです。これは、未来の世代に借金を残していくということです。

そうなると、国や行政だけに頼るのではなく、ますますコミュニティーにおける「互助」が重要になってきます。そこで、ヤフーでは小さなコミュニティーの互助を手伝うITサービスやツールを提供したいと考えています。さらに、コミュニティーごとにデータを集め、そのコミュニティーのエンパワーメントを加速していきます。

為末:講演などで呼ばれて地方に行くと、人がかなり少ない。それもおじいちゃん、おばあちゃんばかり。

人口減少・高齢化に対して、同じような施策を打つのではなく、地方の活性化やサステナビリティー(持続可能性)を考えたとき、その時代に合った形で、かつ、それぞれの土地柄に合った解決策を取るべきだと思います。

アスリートの現役は25歳くらいまでといわれています。25歳までの練習方法は、とにかく「量を増やす」こと。しかし、25歳を過ぎて、回復のペースが下がっているのに、これまでと変わらず練習の量を増やしてしまうと、体が壊れ始めます。そのため、25歳からは、どの練習を削るのかを考える必要があります。

ここで重要なのが、削ってはいけないことが何かを分かっていることです。このセンスがないと、体に負荷がかかり壊れてしまいます。

同じように、組織や地域社会を考えた場合も、何を削り何を残していくのか判断していくことが重要です。

実はスポーツの協会は不祥事が多いといわれているのですが、組織がそれ自体を永遠に残すことだけを命題にしてしまうと、組織は腐ってしまいます。大切なのは、何をサステナブルにするのか。箱を残すことと、思想を残すことでは大きく違います。

川邊:為末さんがおっしゃったように、その時代に合った組織や、サービスをつくることが重要ですね。

当社では「課題解決エンジン」として、「Yahoo!検索」「Yahoo!ニュース」「Yahoo!天気・災害」など、さまざまなサービスを提供してきました。どれも、個人をエンパワーメントすることにつながっています。今後も、この方針を貫きたいと考えています。

為末大

1978年広島県生まれ。陸上スプリント種目の世界大会で日本人として初のメダル獲得者。男子400メートルハードルの日本記録保持者(2015年5月現在)。2001年エドモントン世界選手権および2005年ヘルシンキ世界選手権において、男子400メートルハードルで銅メダル。シドニー、アテネ、北京と3度のオリンピックに出場。2003年、プロに転向。2012年、25年間の現役生活から引退。現在は、一般社団法人アスリートソサエティ(2010年設立)、為末大学(2012年開講)、Xiborg(サイボーグ、2014年設立)などを通じ、スポーツ、社会、教育、研究に関する活動を幅広く行っている。

川邊健太郎

ヤフー株式会社 副社長最高執行責任者(COO)

1995年大学在学中に電脳隊を設立し、1999年に代表取締役に就任。同じく1999年にPIM株式会社を設立。2000年のヤフー株式会社、電脳隊・PIMの合併に伴い、ヤフー株式会社に入社。「Yahoo!モバイル」、社会貢献事業のプロデューサーを担当し、その後、「Yahoo!みんなの政治」や「Yahoo!ニュース トピックス」などの責任者を歴任。2009年5月に株式会社GYAO代表取締役社長に就任。2012年4月、ヤフー株式会社最高執行責任者(COO)となり、同年7月、副社長に就任。

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