障がいの有無にかかわらず
すべての人にウェブサービスを

写真:左から中野信と箱田慶太

ウェブアクセシビリティの向上に取り組むヤフー株式会社マーケティングソリューションズカンパニー デザイン戦略室の中野信(左)とヤフー株式会社検索メディアユニット ウェブ検索サービスマネージャーの箱田慶太

2016年4月に「障害者差別解消法」が施行され、だれもが平等な機会を得られるように、社会の障壁を取り除くことが求められるようになった。ヤフーは2013年に「ウェブアクセシビリティ方針」を発表し、障がいの有無にかかわらず、すべての人にとって使いやすいウェブサービスの開発を進めてきた。こうした取り組みを支えるのが、デザイナーとエンジニアだ。

文=吉田広子(オルタナ副編集長) 写真=川畑嘉文

ICT(情報通信技術)が急速に発展し、インターネットの人口普及率は82.8%に上った(平成27年版「情報通信白書」)。多くの人がICTの恩恵を受ける一方で、情報弱者が不利になる「デジタルデバイド」(情報格差)の問題も指摘されている。

例えば、視覚障がい者は音声読み上げソフトなどを利用して、ウェブページを閲覧するが、そもそも、音声読み上げソフトに対応していないウェブサイトも多い。こういった情報の障壁を取り除き、アクセス性を高めるのが「ウェブアクセシビリティ」だ。

スマートフォンには音声読み上げ機能が備わっているが、視覚障がい者は晴眼者よりも目的の情報にたどり着くまでに時間がかかったり、たどり着けなかったりすることもある。ページを開いても、一目でどこにどんな情報があるか判断が難しく、まず、そのサイトが適切かどうか全体を読み上げる。そこから、リンク先に飛び、同じ作業を繰り返す。

最近は、画像データや動画データが増えているため、そこに画像や動画があることは分かっても、どんな情報が入っているかまでは分からない。ヤフーはこうした課題を一つひとつ解決し、ウェブアクセシビリティの向上に取り組んでいる。

中野信の写真

中野は社内外のセミナーに登壇し、他社の技術者とも積極的に意見交換を行う

「正しく過不足ない」情報を

「すべての人に、正しく、過不足なく情報を届けることが使命」。ヤフー株式会社マーケティングソリューションズカンパニーデザイン戦略室の中野信は、力を込める。中野は2006年にヤフーに入社し、「Yahoo!検索」などのウェブデザインを手掛けてきた。前職でウェブアクセシビリティに携わった経験から、「ヤフーでもまだまだできることがあると思った」と振り返る。

2009年に社内で「ユーザーインターフェイス(UI)実装ガイドライン」のワーキンググループが立ち上がり、2011年にガイドラインにアクセシビリティの要件を盛り込むことになった。ちょうど会社概要のリニューアルのタイミングと重なり、まずは会社概要のアクセシビリティ向上に取り掛かった。

具体的には、各コンテンツに見出しを付けて目次をつくったり、簡単にヘッダーからフッターに飛べるようにしたりするなど、情報設計を改善した。画像の処理も同様で、ロゴならロゴ、写真なら社長や役員の写真だと分かるように変更した。

これらは、ワールド・ワイド・ウェブ・コンソーシアム(W3C)が定めるウェブ・コンテンツ・アクセシビリティ・ガイドライン(WCAG)の「等級A」に一部準拠している。

「ウェブアクセシビリティの向上といっても、技術的に難しいことをするのではなく、知っているか、知らないか――の差が大きい。会社概要のリニューアルも、『やってみよう』という機運があった。できるところから段階的に、タイミングを見極めて改善していきたい」(中野)

箱田慶太の写真

サービス開発の責任者である箱田は、開発優先度を決める上でもウェブアクセシビリティを重要視しているという

デザイン原則にユニバーサルの観点

日本の障がい者数は約790万人、人口の約6%を占める。だが、一般的には少数派としてとらえられ、適切な配慮を受けられないことも多い(内閣府調べ)。

「ヤフーのサービスは、誰にとっても使いやすいサービス提供を目指しており、デザイン原則のなかにも、ユニバーサルという考えが盛り込まれている」

こう説明するのは、ヤフー株式会社検索メディアユニットウェブ検索サービスマネージャーの箱田慶太だ。Yahoo! JAPANは月間700億を超えるPVを誇り、100以上のウェブサービスを持つ。

箱田は「数が多い少ないの問題ではなく、課題を抱えるユーザーがいれば、その課題を解決するのは当然のこと。誰でも手を骨折したらパソコンやスマートフォンを使いづらくなる。配慮は必要だが、障がいを持つ人だけを特別視しているわけではない。緊急度、窮迫度の高い情報を、必要とする人に迅速に届ける仕組みをつくりたい」と語る。

黒帯バッジの写真

「黒帯」のピンバッジ。中野は2017年9月まで「黒帯」として活動する

「黒帯制度」でウェブアクセシビリティ向上を推進

こうした取り組みを後押しするのが、2012年に立ち上げた「黒帯制度」だ。高い専門性を持った技術者を「黒帯」として任命し、社内外で技術貢献することを期待する。任期は1年で、中野は2015年9月にアクセシビリティの黒帯に選ばれ、2016年9月に二期目を再任した。

中野は、「実際に障がいを持つ人がヤフーのサービスを利用している様子を見ると、想定とは違った使い方をしていることもある」と言う。例えば、スマートフォンのサービスは、目で見ながらタップやスワイプで操作することを前提に設計している。だが、読み上げ機能を使うと、読み上げ順が分かりにくかったり、場合によっては読み上げ機能を使えないこともある。

画面拡大機能や白黒反転機能を使っているユーザーは、自身に合わせて画面レイアウトや色彩設計を設定しているため、画面全体を使う前提で設計すると、逆にわかり難くなってしまう場合もあるという。

中野は、「障害者差別解消法の施行によって、ウェブアクセシビリティに取り組む法的な根拠ができた。まだまだ知らないこと、やるべきことがたくさんある。フィードバックを得てさらに改善していきたい」と力強い。

中野信と箱田慶太の写真

2人は「情報にアクセスする上での課題を知ってもらい、社内をもっと巻き込んでいきたい」と抱負を語る

ヤフーは会社概要以外にも、すでにYahoo!検索やYahoo!乗換案内アプリで、ウェブアクセシビリティへの対応を進めてきた。今後は、東京オリンピック・パラリンピックが開催される2020年に向けて、Yahoo!ニュースやスポーツナビ、Yahoo!ショッピングといった主要サービスを中心にウェブアクセシビリティの向上を目指すという。

箱田は「これからは例えばウェブ上の動画コンテンツが増えていくにつれて、視覚障がい者には音声ガイド、聴覚障がい者には字幕があった方が分かりやすいなどアクセシビリティを意識して対応すべきことも増えていく。一方で、本来の見やすさ、聴きやすさとのバッティングも増えてくるかもしれない。すべての人に対し、どのようにウェブアクセシビリティを担保するか。さらに議論を進めて、サービスに反映させていきたい」と意気込みを語った。

中野信

ヤフー株式会社 マーケティングソリューションズカンパニー デザイン戦略室

HCD-Net(人間中心設計推進機構)認定 人間中心設計専門家

2006年入社

中野信の写真

箱田慶太

ヤフー株式会社 検索メディアユニット ウェブ検索サービスマネージャー

2008年入社

※肩書、部署名は掲載時のものです。

箱田慶太の写真

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